【イベントレポート】ドイツ「1. FC ケルン」とのメディアラウンドテーブル開催

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サンフレッチェ広島と1. FC ケルンが育成業務提携を締結してから今年で5年目。育成への思いでつながった両クラブは着実に関係を深めてきた。

4月30日、サンフレッチェ広島と1. FC ケルンはオンラインでのメディアラウンドテーブルを実施した。サンフレッチェ広島から育成部部長の沢田謙太郎氏、1. FC ケルンから普及部リーダーのジモン・シャイべ氏と国際化プロジェクトマネージャーの笹原丈氏が出席し、両クラブの視点でこれまでの活動内容などを話した。

両クラブの提携が始まったのは2021年。ドイツでも育成に定評のある1. FC ケルンが日本の提携クラブを模索していた中で出会ったのが、「日本一の育成クラブを目指す」という理念を持つサンフレッチェ広島だった。笹原氏は、「どこでもいいわけではなくて、私たちと同じように育成に力を入れているクラブと提携させていただきたかった」と経緯を説明した。

「指導者の間では『育成には終わりはない』という話がよく出ています。近年を振り返ると、お互いにたくさんの選手をトップチームに輩出してきて、Jリーグやヨーロッパで活躍していますが、そうした選手を育成するには指導者も学ばなければいけないということで、この提携をスタートさせていただきました」(笹原氏)

KV

当初の提携期間は3年間だったが、2024年に契約を延長して今年9月で5年目に入る。この4年間では様々な活動が行われてきた。両クラブの指導者は定期的にオンラインで交流し、情報や意見を交換してきた。サンフレッチェ広島からはアカデミーの選手や指導者が1. FC ケルンを訪れて本場ドイツのサッカーを経験している。

逆に1. FC ケルンからも指導者が広島を年に1、2回訪問し、アカデミーの練習指導やコーチ陣との情報交換を実施。競技以外のところでも、事業部スタッフの訪問や交流が行われている。さらに、広島では両クラブの合同でサッカースクールも開催。1. FC ケルンの指導者が広島県のトレセンチームの練習を見たり、指導者に対しての講習会をしたり、クラブだけではなく地域への貢献にも積極的に取り組んでいる。

両クラブは交流を重ねながら信頼関係を築き上げてきた。提携がスタートした2021年はコロナ禍の真っ只中。沢田氏は当時、日本の厳しい渡航規制でドイツからの入国は困難だと考えていたが、1. FC ケルン側の情熱に突き動かされたこともあった。

沢田氏は、「私は『絶対に入国できないよ』とずっと言っていましたが、(笹原)丈さんが『絶対に行けるから』と言って、いろいろ資料を見せてくれて。それで私が日本の省庁の方まで電話して確認したら『いけますよ』と言われて、そこから一気に進んで日本に来たという思い出が強いです」と振り返り、「スタートは山あり谷ありだったですが、それがあったからこそ、今が順調で非常に楽しくやれていると思っています」と笑みをこぼした。

シャイべ氏も、「(この4年間で)心にあることは、長い期間で作り上げてきた信頼感です。オンラインの指導者勉強会から始まって、最初は実際に会ったこともなかったので、いま自分たちがやっていることは本当に興味深いものなのか、相手が何を考えているのか、という不安もあった中でやっていましたが、この4年間でお互いにとってベストな関係を作れていると思います」と良好な関係性を取り上げた。

1. FC ケルン

両クラブの育成重視という理念は同じだが、日本とドイツではサッカーの取り巻く環境や文化が大きく違う。提携を結んでから、そうしたお互いの違いに直接触れ合ってきた。

沢田氏がドイツを訪れて感じたのは、「サッカーが切っても切り離せないぐらい生活に密接している」ということ。日常に深く根付くサッカー文化を肌で感じた。

「ケルンの練習場は閑静な林の中にあって、おじいちゃん、おばあちゃん、子供たちも散歩していて、クラブハウスではビールを飲みながら、ランチをしながら練習を見ている人もいる。ケルンというクラブが生活の一部になっていて、それが街の誇りになっていると実感して、とてもいい環境だと思いました」(沢田氏)

シャイべ氏も広島のサッカー文化を肌で感じたことがある。提携後に来日して初めてJリーグを観戦したのは、まだ本拠地がエディオンスタジアム(現・ホットスタッフフィールド広島)だった頃。エディオンピースウイング広島へと本拠地が移転したあとに再び広島を訪れ、「新スタジアムで試合を見た時は本当に感動しました。試合の雰囲気も全く違いましたし、スタジアムでこんなに変わることがすごく印象に残っています」と心を打たれていた。

競技面においても、それぞれの国の特徴が出る。ドイツは同じくサッカー強豪国であるオランダやフランスなど様々な国に囲まれていて、「ヨーロッパ内のいろんな国の考えが集まりやすいですし、アフリカや北欧などからのアイデアもたくさん入ってきます」とシャイべ氏は言う。そうした多様性のある環境でプレーすることで選手の個性は強くなるという。

「小さい頃からヨーロッパ内のトップレベルのクラブと試合をする機会が多く、違う国のチームと試合をすることによって、負けず嫌いなところ、絶対に勝ちたいという気持ちが生まれやすいと思います」と主張し、「ドイツのメリットとしては個人を育成できること。11人ピッチに立ったら、11人が違う個性を持っていて、様々なスタイルの選手を育成できるのが強みだと思っています」と話した。

沢田氏も1. FC ケルンで見た選手個々の意欲の高さに舌を巻いた。特に目に留まったのは、GK大国のドイツらしい光景だ。

「ケルンの練習を見たとき、どのカテゴリーのGKもみんな積極的でした。体が大きいとかではなく、GKをやりたい子がたくさんいる中から選ばれたのだろうなと思いましたし、みんなが積極的でやる気満々でリーダーシップを持っていました。そこは日本とは違うなと改めて思いましたし、そういうGKが日本からもどんどん出てきてほしいと思っています」(沢田氏)

ドイツが個の強さであれば、日本には組織力の強さがある。シャイべ氏が初めて日本に来た時に印象的だったのは、「日本のサッカーはシステムがしっかりしていること」だった。

「どのチームやカテゴリーを見ても全選手がチームのためにやっているし、チームの戦術のために何をしたらいいのかを理解していて、団体力やグループ力が高く、秩序がある選手ばかりでした。それはドイツには欠けているところで、いろんな国の選手が集まって、いろんな文化やメンタリティがある中で、それを日本のようにやるにはすごく難しいと思っています」(シャイべ氏)

こうした違いがそれぞれの成長の糧になっている。沢田氏は、「(ケルンで)いろいろなトレーニングを見させていただいて、その都度『やっぱりすごいな』と思いますし、そうしたトレーニングを実際に(広島でも)取り入れています」と明かしつつ、異国の地での経験は再認識の機会にもなったという。

「(広島の選手たちに)技術や戦術も教えながら、もっと戦わないとダメだというところも言っていかないといけない。(ケルンでは)『負けず嫌いをもっと出してもいい』と日本の選手にも伝えていたのを見ると、国は違えども、そういう姿勢や気持ちの部分はやっぱり大切だと改めて気づかせてくれました」(沢田氏)

1. FC ケルンも広島で見た練習の光景が新鮮に映っていた。シャイべ氏は、「サンフレッチェさんから勉強させていただくことは多いですし、それをこちらでディスカッションすることはすごく多いです」と話し、実際に取り入れた一つの例として練習終わりの一丁締めを挙げた。

「サンフレッチェさんだけじゃなくて他のチームもやっていると思いますが、練習が終わった後に手を叩く姿を我々のスタッフが広島で見て、それをケルンでもやり始めました。ケルンでは練習中にいろんな出来事があって、喧嘩する選手もいたりしますが、練習が終わったら手を叩いて仲直りして終わるのはいいことだと思います。すごく小さいことですが、団体力やチーム力が高まることだと思っています」(シャイべ氏)

普段は当たり前の習慣も他方では価値ある新しい取り組みになりうる。サンフレッチェ広島と1. FC ケルンで違いがあるからこそ、お互いにメリットがある。

シャイべ氏は、「ドイツとしてはオランダやベルギーが近くて他の国を見られることが強みだと思いますが、ただヨーロッパ内のシステムはドイツとすごく似ているものがあります。(システムが違う)日本のサッカーを見られる機会はそんなにありませんでしたし、提携したい今はサンフレッチェさんなしではありえません」と話し、「活動している中で新しいインプットがとても増えていて、ケルンでも使えるという話がたくさん出ています。これは本当に我々にとってメリットになっていますし、サンフレッチェさんから学ばせていただくことも多いです」と充実感を口にした。

サンフレッチェ広島としても普段得られない経験を積む貴重な機会になっている。沢田氏は、「選手が成長するために必要なもの」の一つに「海外経験」を挙げて、「ケルンと提携することによって、海外遠征のハードルが低くなったと思います」と手厚いサポートへの感謝を述べた。

「今までだと1から遠征の準備をしていましたが、今ではドイツに行くと、ジモンと丈さんのお2人が本当に良くしてくれます。トレーニングの内容や試合のコーディネートなど全てやっていただいて、その中でケルンのスタジアムや練習環境を見せてもらったり、観光案内もしてもらったり、サッカーだけではなくて、いろんなことに触れ合い、学べる機会を作ってくださっています。そこはいつもすごく感謝しています」(沢田氏)

両クラブにとって自分たちの環境とは違う外の世界とつながることに大きな意味がある。それは選手や指導者、チーム、そしてクラブにとってもより成長を遂げるために欠かせないものだ。

沢田氏は、「昔言われていた『サッカー王国・広島』の復活ということを、サンフレッチェの中で僕が声を上げていますが、こうした活動を続けながら少しずつ挑戦して、またそう言われるぐらいに選手やチームが活躍するような世界にしていきたいと思っています」と意気込んでいる。

シャイべ氏はドイツと日本の距離感という課題に言及しつつ、「クラブとしても最初はコストが問題で何回も行き来はできないという話しでしたが、信頼感を作り上げて、メリットがクラブ内で共有されたことで、コストの面は以前よりも問題視されなくなってきました。課題もこの4年間を経て少しずつ少なくなっていると思いますし、これから先も一緒にさせていただく活動を本当に楽しみにしています」と今後の発展に期待を寄せた。

1. FC ケルン

育成に力を入れるクラブ同士が手を組み、サッカーを通じて未来を作っていく。シャイべ氏には記憶に残っているシーンがある。広島でサッカースクールを開催した時のことだ。

「初めて僕らを見た子供たちが練習前に大泣きしていましたが、練習を始めて10分ぐらいたったら恐怖感がなくなったのか、泣いていた子供たちがその後はずっと笑っていました。それはサッカーの魅力の1つだと思っています。言葉が通じなくても、文化が違っても、国と国、人と人をつなげるのがサッカーの素晴らしいところですし、それはこの提携なしではなかなか難しいことの1つだと思っています」(シャイベ氏)

サンフレッチェ広島と1. FC ケルン、お互いに環境や文化は違うが、大事していることは同じ。「育成に終わりはない」ということ。今後も両クラブは未来に向けて、ともに活動を続けて前進していく。


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